12.2. 遺伝子組換え技術
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有用な生産物をつくるために生物の構成要素や生物そのものを操作すること
有史以前から行われている
遺伝性の物質を研究し操作する技術
現代の人々がバイオテクノロジーというときはこちらを指すことが多い
1970年代に組換えDNAを実験室内で作製する方法の発明により、バイオテクノロジーの分野が爆発的に進展した
生物種などの由来の異なるDNA断片を結合することによりつくられたDNA分子
実用的な目的で遺伝子を直接操作する
遺伝的に操作した細菌を用いることにより、抗癌剤から農薬まで様々な有用化学物質が大量生産されている さらに、遺伝子を細菌から植物へ、ある動物から他の動物へと移すことも可能となっている
応用 : ヒトインスリンから遺伝子組換え作物・動物まで
目的とするタンパク質の遺伝子を細菌、酵母またはある種の動物細胞など容易に培養できる細胞に移すことにより、天然にはごく少量しか存在しないタンパク質を大量に生産する事が可能 ヒューマリンができるまで
正常な人ではインスリンは膵臓で生産されるタンパク質であり、ホルモンとして血中の糖濃度を制御する機能をもつ 1型糖尿病は、十分名料のインスリンを生産できなくなったため発症する 1型糖尿病患者は生涯にわたって毎日適切な量のインスリンを自分で注射しなければならない
以前は入手が困難だったので、糖尿病の治療にはウシやブタのインスリンが処方されてきた ブタやウシのインスリンはヒトのインスリンとアミノ酸配列がわずかに異なるため、アレルギーを引き起こすことがあった
1970年代には需要に追いつかなくなり、新たな供給源が求められていた
1978年にバイオテクノロジー企業であるジェネンテック社に勤務する研究者が、活性型のヒトインスリンを構成する2つのポリペプチドをそれぞれコードするこ2つの遺伝子を化学的に合成した インスリンを構成する2つのポリペプチドのアミノ酸配列はすでに知られていたので、遺伝暗号表を利用して、これらのポリペプチドをコードする塩基配列を設計するのは容易であった 研究者らはDNA断片を化学的に合成して連結することにより、インスリン遺伝子を作製した
1979年には人工的につくられた遺伝子を宿主の大腸菌に導入することに成功した 適切な条件で培養することにより、この大腸菌はヒトのタンパク質を大量に生産した
1982年、ヒューマリンは世界初の遺伝子工学的に生産された医薬品として商品化された
毎日400万人以上の糖尿病患者が利用している
他の動物の成長ホルモンはヒトには効かないため、HGHは遺伝子工学の優先順位の高い目標だった
1985年に遺伝子工学により生産されるHGHが市販されるまでは、HGH欠乏症の子供は死体から得られる希少で高価なHGHを治療に用いるしかなかった
医学的に有用なヒトのタンパク質生産には、細菌の他に公募や哺乳動物細胞を用いることもできる
EPOは貧血症の治療に用いられるが、残念なことに、運動選手の中には人為的に高レベルの酸素を運搬する赤血球を得る利点(血液ドーピング)のためにこの薬剤を不正使用する者もいる DNAテクノロジーは、医学者がワクチンを開発するのにも用いられる
ワクチンを摂取されると免疫系が活性化され、標的の微生物に対する恒久的な防御システムが作り出される 多くのウイルス性疾患に対しては、感染症による深刻な症状を回避する唯一の方法が、ワクチン接種により発病を防ぐこと ワクチン生産の一例が、病原性ウイルスの表層タンパク質を大量に生産するように遺伝子操作された酵母細胞の利用 肝臓の機能を低下させ、時には致死的となるB型肝炎に対するワクチンは、この方法により酵母から生産されている 遺伝子組換え(GM)作物
人工的な手段により1個またはそれ以上の遺伝子を獲得した生物のこと
新たに獲得した遺伝子が他の生物、特に別の種類の生物に由来する遺伝子組換え生物
害虫抵抗性作物の栽培では、化学的な農薬の必要量が減少している
天然の凍結防止剤として働く細菌由来のタンパク質を生産する遺伝子組換えイチゴは、低温に弱いイチゴのような作物を寒気から守るために開発されている コレラに対する「食べられるワクチン」として供給できるようになることが期待されている インドでは、天然に存在する希少な塩水耐性遺伝子を組み込むことにより、海水の3倍の塩濃度の水中で生育できる新たな品種のイネが作出されている
科学者はさらに遺伝子工学によって農作物の栄養価を高める試みも行っている
遺伝子組換え動物
このブタが生産するヘモグロビンを単離して、ヒトの輸血に用いることができる
遺伝子組換え動物の作出は難しいため、研究者はトランスジェニック動物を1頭つくると、その1頭からクローンをつくって殖やす
DNAテクノロジーはゆくゆくは従来の動物育種法にとってかわるだろう
筋肉を大きく発達させる遺伝子をある品種のウシから同定することにより、食べる部分が多くなる遺伝子を他のウシやニワトリに導入することができる
2006年に、健康によくない脂肪酸を健康的なω-3脂肪酸に転換する酵素をコードする回虫由来の遺伝子を導入されたブタを作出した この遺伝子組換えブタは、通常のブタに比べて4~5倍の健康的なω-3脂肪酸を含んでいる
遺伝子組換え植物とは違って、遺伝子組換え動物は現在のところ有用なタンパク質の生産目的にだけ利用されており、食品としてのトランスジェニック動物は販売されていない
組換えDNA技術
実験室で遺伝子を取り扱うときには、生物学者はプラスミド plasmidとよばれる、細菌の染色体に比べてずっと小さく独立して複製する環状のDNA分子を用いることが多い https://gyazo.com/a4493b39183e0cbf2c527ca43c10d21f
細菌のプラスミドは、事実上どんな遺伝子も連結して、次の世代の細菌に伝える事ができることから、ある遺伝子を含むDNA断片の均一な多数のコピーをつくる遺伝子クローニング gene cloningの重要な手段となっている 遺伝子工学の標準的な研究法
分子生物学の研究者が有用なタンパク質をコードする目的の遺伝子を同定する
生物学の研究者が目的のタンパク質を大規模に生産することを計画したとき、遺伝子組換えを用いて目的タンパク質の生産を達成する
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2種類のDNAを用意する
2. 目的の遺伝子を含む外来のDNA
3. この2種類のDNAを酵素を用いて切断する
このとき、各々のプラスミドDNAは1ヶ所だけ切断されるが、そのうちの1つに目的の遺伝子が含まれる
4. 次に、外来DNA断片群を切断されたプラスミドと混合する
2種類のDNAを結合して組換えDNAプラスミド群を生成する
その中のいくつかには目的の遺伝子が含まれていることが期待される
5. 組換えプラスミドを細菌と混合する
適切な条件下で細菌はプラスミドを取り込む
6. 組換えプラスミドを取り込んだ細菌は各々が増殖することができる
この段階が事実上の遺伝子クローニング
1匹の細菌の分裂増殖により、単一の祖先細胞に由来する同一細胞群であるクローン cloneが大量に形成され、組換えプラスミドに乗っている遺伝子も同時にコピーされる 7. この細菌クローン群から何らかの方法により目的の遺伝子を含む少数の細菌クローンを探し出す
8. 目的の遺伝子を含むトランスジェニック細菌を大きなタンクで培養することにより、目的のタンパク質を商業規模で生産することができる
制限酵素によるDNAの切断と結合
組換えDNAの作製に用いられる切断器具となる細菌由来の酵素
これまでに数百種類の制限酵素を同定されている
それぞれの酵素は、通常4~8塩基の短い特定の塩基配列を認識する
制限酵素がDNA分子中の認識配列に結合すると、認識配列中の特定の部位でDNAの2本鎖を切断する
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2本のDNA鎖の切断部位が食い違っているため、2本鎖DNA断片の末端に「突出末端」とよばれる短い1本鎖DNA部分が生じる 突出末端は、由来が異なる外来DNAの制限酵素断片を結合するキーポイントとなる
2. 次に外来のDNA断片を加える
緑色のDNA断片は青色DNA断片と同一の制限酵素を用いて切断されたため、突出末端の1本鎖DNA部分の塩基配列が青色DNA断片の突出末端と同一であることが重要
3. 青色DNA断片と緑色DNA断片の突出した相補的な末端が塩基対合する
4. DNAリガーゼは正常な細胞がDNA複製に用いるタンパク質の1つであり、近接したヌクレオチドの間に共有結合を形成することによりDNA断片を連結し、連続したDNA鎖を形成する
目的遺伝子の取得
多数の異なる外来DNA断片を含む数百万個の組換えプラスミド野菜から目的遺伝子を含む1つに「命中」させる
通常のクローン化されたDNA断片には1個または数個の遺伝子が含まれるだけの大きさしかない
ある生物の遺伝子の完全なセットであるゲノムの全体をカバーするクローン化DNA断片のコレクション ゲノムライブラリーを構築したら、次に正しい「本」を見つけ出さなければならない
すなわち、目的とする遺伝子を含む細菌のクローンを同定しなければならない
ある遺伝子を検出するには、目的遺伝子の塩基配列と、検出用のDNAまたはRNAの核酸分子の相補的な配列との間に塩基対合を形成させる方法が一般的
目的とする遺伝子の塩基配列のごく一部でも判明していると、この情報は非常に役に立つ
たとえば、目的とする遺伝子にTAGGCTという配列が含まれるとわかっていれば、研究者は相補的な塩基配列ATCCGAをもつ短い1本鎖のDNAを合成し、放射性同位元素または蛍光色素で方式することができる 相補配列をもつ探索用の1本鎖DNAを分子
膨大なDNA分子の中から特定の遺伝子や特定の塩基配列を見つけ出すのに用いられる
多数のクローンを含むDNA分子のに放射線を発するDNAプローブを加えると、目的とする遺伝子の相補的な配列と塩基対合を形成することにより、正しいクローンのDNA分子に標識をつけることができる
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ゲノムライブラリーから目的とするクローンをプローブにより検出すると、標識された細胞をさらに培養できるようになり、目的とする遺伝子の大量生産に結びつく
目的とする遺伝子を合成して取得する方法もある
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1. 目的とする遺伝子を転写している真核細胞は,
2. 転写産物RNAのスプライシングを行い、イントロンを除去してエキソンを連結してmRNAをつくる 3. mRNAを単離し,
4. 試験管内で逆転写酵素を用いて相補的な1本鎖DNAを合成する
特定の細胞に由来するmRNAの混合物から実験を始めるときは、逆転写酵素を用いた実験によって得られるDNAは相補的DNA(cDNA)と呼ばれ、元の細胞が実際に転写している遺伝子だけが得られる cDNA分子にはイントロンが含まれないため、目的とする遺伝子の全長よりも短く、取り扱いが容易
目的とする遺伝子を得る最後の手段は、全塩基配列の化学合成
自動DNA合成装置を用いることにより、数百塩基までの長さであれば、どのような配列でも正確で迅速に設計通りのDNA分子を合成することができる